日々徒然?になる予定
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965deKKS
サイトに上げるには文章量が少なく、続編(予定)されているので、ひとまずブログにアップしてみました。
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あの人は今も、夏の中にいる。
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毎年濃い青空とそこに真っ白な入道雲が現れる季節になると、俺は母方の実家に行く。片田舎にある平屋の一軒家で、別荘と呼ぶのを憚るような、極々普通の民家だ。本来住んでいた祖母は他界し、ほぼ空き家となってしまっているので、俺ぐらいしか使っていない。姉とかには『なんでわざわざそんな所』って言われるような、車がなければ酷く不便な所にその家はある。
家についたらまず全部の窓を開け放って、淀んだ空気の入れ替えに精を出す。幸い今は便利な世の中になったもんで、ル●バとかの全自動掃除機を置いたので、昔ほど埃が積もっているということはない。ただ問題あるとすれば、庭の方だろう。春先には庭師に頼んで手を入れてもらっているが、三ヶ月近くも経てば雑草が延び盛った。屋内を人間らしい空間にしたら、今度は庭の草取りが待っている。その面倒さを思えば溜め息が漏れそうだが、自分一人でやる訳ではないと考えれば悪くない。
粗方家の整理が着いた頃には夜の七時を回っていた。いくら巷で『年を取らない』だの『若い』だの言われても、確実に肉体は衰えて行っていた。昔はこの程度では疲れなかった筈なのに。歳は取りたくないものだ。
一先ず風呂だけは入って、大量に持ち込んだインスタント食品で今日は夕飯にしよう。あの人が来てるなら、料理をする気が湧くけど、自分のためだとサボりがちになるのはきっと俺だけではないだろう。お湯を注いで三分は偉大である。
ずるずる麺を啜っているときだった。簡単に言えば、油断していたのだ。
「おまえ、初日は大概かっぷらーめんだな」
「ブッ! ゆ、ゆきさん!!」
「よ。久しぶりだな」
気がつくと隣に座って青年__ゆきおさん__はにかっと笑った。大きな瞳は夏の深い空の青色は出会った当初と変わらず、俺を魅了する。その体を引き寄せて抱きかかえた。腕に納まるゆきさんの体温は俺よりもいささか低い。襦袢越しに体の線を撫でれば、むず痒そうに身を捩った。
愛しい愛しい愛しい。
抱きしめた所からそんな気持ちが溢れる。もうすぐ三十路だというのに、何時まで経ってもゆきさんへの衝動は止まらない。青臭くて格好悪いままだ。
「ゆきさん、ゆきさん、ゆきさん」
「ほら、泣くな。俺、オマエに泣かれるの苦手なんだよ」
名前を繰り返し呼べば、ゆきさんは少し困った声で宥めてくれる。ぽんぽん、と回した腕で背中を叩いた。そうしてくれたから、ちょっとは落ち着いて、上体を離してからそっと唇を盗む。ちょっと驚いた表情から、照れ笑いに変わって、ゆきさんは目を閉じた。何度も唇を戯れるように重ねてながら、それを深いものへと変化させた。舌を絡め合い、上顎を舐めれば、体を奮わした。
キスを終えた頃には、頬を紅く染めて、唇をぽってりとさせたゆきさんの出来上がり。
「お、おまえの口付け長いんだよ……!」
「だって、久しぶりだったんスもん。我慢できない」
「はぁ……仕方ねぇな」
「えへへ……ただいま、ゆきさん」
「おう。おかえり、りょうた」
そう俺に微笑みかけるゆきさんは、子供のようにとても無邪気に笑う。腕の中に確かにある重み。滑らかな肌は夏の陽射しが似合う色をしている。あぁ、やっと、やっと、あえた。ゆきさんの肩に顔を埋めて、息を吸い込む。夏の夕立が降り出す前の、濃い緑と水の匂いを思い起こさせる。
ゆきさんは永遠の夏の旅人。捕まえられない人。
そして____俺の最愛の、ヒト。
ゆきさんと一年ぶりの再開をこの体で心で感じて、ようやく俺は『俺』に戻れる。俳優として芸能界で売れている黄瀬涼太でも、様々な女性を虜にする黄瀬涼太でもなく、ただの極々普通の『黄瀬涼太』に。
比翼連理が、今戻ってきたのだ。体温を感じながら、俺は初めて出逢った頃を思い出していた。
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