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日々徒然?になる予定
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・運命ゼロ
・バサ雁です
・つまり、8で0で1です
・やまなしおちなしいみなし


____沈黙が聞こえた



venez m'aider




たゆたう意識の中、私はそこに行き着いた。
どこか薄暗い小さな部屋。
乱雑に床に散らばる品々の多くは写真で、紛れるように色々な言葉で書かれたパンフレットが覗く。
寝床は生活感たっぷりに寝乱れていて、ぽかりと足を突っ込んでいたであろう場所が兎の塒のように空いている。
部屋の隅ある座卓には本や紙が中央を囲むように積み重なり、真ん中を占拠している紙を見れば走り書きされたメモ用紙とその下に原稿用紙、後は万年筆と言った感じだ。
しげしげと回りをすべて___といっても一間の狭い部屋だ___を概ね確認すると、一番足下に近い写真を手に取った。
黒髪の女性が両脇に子供___おそらく彼女の娘なのだろう___と共に鮮やかな笑顔で幸せそうに笑っていた。
私はあまり芸術に部類されるものに興味はないが、思わず目を惹き付ける。


_________ぇ


遠くから、何か音が聞こえた。
奇妙なまでに音のない世界で、酷く小さな音を私は拾った。
魅入っていた写真を先ほどの座卓の本の上に置いて、音の出所を探し始めた。


________て


か細い音に耳を澄ませながら、なるだけ物音を立てないように後を辿る。
狭い部屋に対して占拠しているように感じさせる本棚の一番したの段からだ。
大判の本が詰まっていて、左から二番目の本からしているのを突き止めた。
引き出された表紙は真っ黒く著者名はおろかタイトルらしき物も書かれていなかった。
持っているこの本に不快感を感じながらも捲る。


______す_て


重たそうな黒い液体の水紋の写真で、さらにはっきりと言葉が聞き取れる。
写真の表面を右手でふれると___。

ぼちゃり

右手が黒い水に浸る。
私は覚悟を決めて、潜る事にした。
いや、潜らなければならないと思ったんだ。
深呼吸をした後、思いきり息を吸い込んで写真の中に飛び込んだ。
黒い水は外側から見ていたよりは透明で、視界は予想していたよりも悪くない。
ただ、酷く重たくて冷たい。
手と足で水を押しやりながら、声を聞く。


______すけて


苦しくて仕方がないという声だ。
水を掻いて、下へ下へと行く。
まるで底なんてないのではないだろうか。
一掻きごとに、脳裏に映像がノイズ混じりに入って来た。

寒々しい、暗い室内に子供は独り
大人はいれども、こちらを見ない
家族はいれども、こちらに触れない
何も無い室内に無造作に置かれた本だけが少年の傍らにあるもの
物語はいつだってハッピーエンド
その続きなんてない
褒めてくれる母も、叱る父も、喧嘩する兄も、笑いかけてくれる祖父も、この家にはない
_____さむい

さらに深くへと泳いで行く。

鬱蒼と茂った樹々の隙間を縫うように陽射しが射し込む
家の中よりも些かではあるが明るく感じる
子供に手を差し伸べたのは子供よりも一二歳程年上の少女
あどけない笑顔で子供に笑いかける
_____このひとなら

水の色が濃くなっていく。
口元から気泡が漏れ、上へ上へと昇っていくのが感覚的に解った。
まだ、深くへと行かなくては。
私の胸をそんな焦燥で埋められる。

子供は少年になった
相変わらず他人行儀な家
家のせいなのだろう
沢山いる子供と同年の子らはただ遠巻きに子供を見た
一人の子供
変わらない笑顔の少女
温かい唯一の光
_____あぁ、好きだな

小さ過ぎる言葉ようやく耳にはっきりと聞き取れるようになる。
声の主の音を聞きたくて、更に水を掻き分けて進む。

世界は黒く塗りつぶされる
子供が泣きわめいている
真っ暗な世界にあった一筋の光が閉ざされた
堕ちた闇は暗い
階段の下に何かが蠢いた
怯えて戸を叩く少年を蠢いた生き物が呑み込む
_____やめて!!!や 助けて だれか……だれか!!
ぐちゃぐちゃに粘液で汚された子供が虚ろな目で空を見る
戸が開かれる
扉の間から射し込む光で長い長い影を創った
ぽろり、と涙が少年の片目から一粒落ちた
_____よごされてしまった
_____こんなにみにくくては
_____あいされなくてもしかたがない

涙を拭おうとした手は届かない。
幻影は瞬く間に目の前から消えてしまう。
これはなんなのだろう。

鮮烈な赤を身に纏う少年が子供に手を差し出す
少年の傍らには例の少女が寄り添う
_____何て、きれいなんだ
眩しそうに瞳を細める
_____何で、俺なんだよ
声を押し殺すように子供は綺麗に笑った

憧憬と怒り。
綯い交ぜの声が響く。
それは紛れもなく、子供の慟哭だった。

子供は更に大きくなる
手にあるのは小さな鞄
幽かながらの持ち物だけで子供は飛び出す
_____ここじゃない何処かへ
それは逃亡だった
あの家の影を恐れるように流れ続ける
そして子供は大人に混じり働き出す
何処へでも行った
誰とでも笑い合った
楽しそうに笑ってみせた
とても美しいものを切り取って
同じだけ醜いものに向き合って
走って走って走って
子供は青年になった
家を出て笑顔でいることが多くなった
それでもふとした瞬間
寂し気にその瞳が揺れる
眦に雫はない
_____さみしい
少女は女性になり
少年は男性になった
そして二人は寄り添い番いになる
_____さみしい
二人の間に子供が生まれる
美しい人から生まれた美しい子供
愛されるために生まれた子供
_____そう、自分とは違う
穏やかに笑う彼らは世界の何処にでもあるもの
”家族”
それを青年は遠くから眺めた
_____さみしい

その言葉は嘘偽りなく、子供___青年の叫びだ。
伸ばした手は透明な壁に隔てられる。
似ている。
口からまた、こぽりと空気が逃げた。

転換する
光は闇へ
喜劇は悲劇へ
青年は走る
逃げて逃げて逃げて帰らないと誓った家へ
_____どうして
薄気味悪い部屋に愛される子供はいた
_____どうして!
キラキラと輝いた光を失い虚ろに青年を見上げた
青年は泣いた
_____どうして!!
美しい世界から転げ堕ちた子供を掻き抱く
老獪な化け物が嗤う
青年は睨みつけながら何かを言った
_____どうして!!許さない!!!なんで
_____巣から堕ちてしまった子供を巣に帰そう
_____なんであたりまのものを捨てられる!!
_____君だけは必ず助けよう
_____捨てるくらいなら
_____奪っても良いだろう

吹き荒れる言葉は怨嗟と誓約。
狂って行く青年をただ見ているしかなかった。
光景は急激に切り替わりながら流れて行く。
こぽり。
息苦しいさを覚えつつも、まだだと自身を奮わす。

痛めつける度に
暗い扉を潜る度に
ほろほろと青年の姿が変化していく
黒々とした髪は老人のような白へ
両目の黒は色違いに代わり
片目が白く濁った
滑らかだった肌の左側が醜く歪む
_____憎い憎い憎い憎い憎い憎い
_____妬ましい妬ましい妬ましい
________て
_____憎い羨ましいなんで
_____助けなきゃ
_____痛い痛い痛いやめて

様々な叫びが混ざり混沌とする。
光差さない水底にようやく着いた。
砂地に沈む白いものを見つける。
それは、白くなってしまった青年だった。
がりがりに痩せて、苦痛に耐え抜いた青年だった。
優しくその薄い躯を掻き抱いた。

_____憎い
_____どうして
_____痛い
_____愛されたい
_____憎い憎い憎い
_____ころしたい
________て
_____痛い
_____憎い憎い憎い憎い憎い
_____愛して
_____
____
___
__
_


唇を重ねる。
薄くも柔らかな唇を割り開き、舌を絡める。
隙間から気泡が逃げ出すも、どうでもいい。
貴方と私は良く似ている。
誰かに愛されたいと願うも、どこまでも臆病で。
独りを寂しがりながら、繋がる術を知らない。
何処にも言えない言葉を胸の褥に積み重ね。
それで、狂っていく。
貴方の願いは何ですか。
逃げないで。

________て

大丈夫です。
怖がらないでください。
私なら貴方を受け入れられる。
全部見せて下さい。
私と貴方は鏡なのだから。
大丈夫です。
ほら。

_____たすけて

一人で泣かないで下さい。
私が一緒にいます。
重ねた肌から熱を分け合う。
重たくて仕方がなかった水が澄む。
水面に出るのはあっという間だった。
耳元に囁いた。


「愛しています」


驚き目を見開いて頬を赤らめる。
浜に連れ立って上がれば、そこに見慣れた人が映る。
私のマスター____間桐雁夜その人だ。
雁夜の腕の中には紫髪の少年が抱かれていた。
今まで抱きしめていた青年はもう一度私に抱きついた後、雁夜の元へ走り抱きつく。
幸せそうに笑って、雁夜に溶け込む。
少年もまた、雁夜に抱きしめられた後、私の前に立つ。

「たすけてほしかった」
「……はい」
「しあわせになりたい」
「はい」
「もう、だいじょうぶだよね?」
「はい!」

少年もまた微笑んで私に溶ける。
ここには私と雁夜だけ。

「ランス」
「はい、雁夜」
「ありがとう」
「私もありがとうございます」

私達はただ微笑み合った。




おわり




あとがき
バンプのメーデーを聞いていたら、バサ雁を受信してしまいました。
雰囲気小説で一人称。
読み難い事この上なしですみません。
タイトルは仏語の救難信号です。



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