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日々徒然?になる予定
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・『藍色主IF』の別ヴァージョン
・別名本来の道筋
・死にネタ含み
・ブログなので変換機能はないです
・藍色主はデフォ名である『藍川セツ』と表記されます

貴方がいた過去


貴方を喪った今


貴方のいない未来




   L O S T




南イタリアのボンゴレ本拠地よりやや離れた療養地。
穏やかな海が沈みゆく太陽にオレンジ色に染まり、ボンゴレの十代目として君臨した主君の炎の色をセツに思い起こさせた。
乾燥した風が室内に吹き込み、微かながらにカーテンの裾を揺らす。
出逢ってからどれだけの時間が過ぎ去っただろう。
そう感傷的に昔を思い出すようになるのは、斜陽を感じているからに違いない。
セツは西向きの窓から暮れ行く空を見上げながら独り静かに見遣る。
時間に置き忘れた存在であるその人は齢を重ねていく大切な人達をただ見守るしかなかった。
体力に翳りが生まれ、髪に白髪が混じり、皮膚に皺が刻まれる。
生まれいでたるモノならば誰もが逃れられぬ定め。

___それは、死だ。

セツとて死なないわけではない。
しかし一般的な人よりも遥かに気が遠くなるほど永く永く生きる。
さらさらと砂時計の砂が流れ落ちる音がする。
セツの身を占める感情がただ一つ___恐怖である。
喪うのが怖い。
独りになるのが怖い。
唯一の人がいなくなるのが怖い。
こわいこわい。
表面上何でもないように取り繕っていても、内に蔓延り、心をどうしようもない程揺らす。

「ここにいたのかい」
「恭弥さん」

ボンゴレ十代目___沢田綱吉の守護者の一人___雲雀恭弥がするりとセツの隣に立った。
大型のネコ科の様な気まぐれな雰囲気は今も出逢った頃とはあまり変わらないが、貫禄が増した。
変わらぬ強さとしなやかさを今でも持ち合わせている恭弥でさえ、老いが見受けられた。

あぁ、この人も置いていくのだ。

目の奥が熱くなるのを気付かない振りをして、いつも通りの笑みを乗せる。
どこまでも自然な笑顔であるように。
気付かないで欲しい、と願いながら。

「はぁ……」

深い溜め息を零した恭弥がセツが何かと尋ねるよりも早くその身を抱きしめる。
かれこれ半世紀以上も共に過ごして来たのだ。
上手く取り繕っていたってその揺れる心の内も分かってしまう。
昔よりも人の機微を理解した孤高の王者は唇を開く。

「僕達はキミよりも早く死ぬだろうね」
「……はい」
「キミを独りにする」
「……」
「悩んだって仕方がない事に気付いているでしょ」

全てのものは死に至る。
遅いか、早いか。
違いはきっとそれだけなのに、こんなにもセツを恐怖に駆り立てりる。
いや、それが自分が死ぬという方がまだ恐ろしくなかっただろう。
唯一の人達を喪うのが怖いのだ。
今まで共にいる事で満たされた時間を永遠に喪うのが怖いのだ。
独り在り続けるのが恐ろしいのだ。

「それでも、心が晴れないなら、アレから何か貰えばいい」
「……どういう意味でしょうか」
「約束でも、思い出でも、キミが納得する何かを」

時間が限られてるんだから、早く行ったら?と、だけ言うとセツをその場に残し去った。
ふらりとやって来てはいなくなるその姿は、ネコ科の動物を想起させる。
分かり難いながらも、慰められたセツは小さく、謝辞を零す。
夕焼けは気付けば海へと消えて、深い藍色と紫の境だけが、太陽の欠片を残す。
通い慣れ過ぎたその道筋は目を瞑っていたとしても辿りつける。
やや奥まった山側の一室に目的の人はいる。
ちょうど来客が途切れ、部屋の主がただ一人目を閉じて座っていた。
出逢った頃より随分と白髪が増えた髪は闘病時の薬のせいで髪の量は減っている。
しかし記憶と変わらない柔らかな笑みに泣きたくなる。
来客者はベットの傍に置かれた椅子に腰掛けた。

「待ってたよ、セツ」
「君主(マスター)……」
「お別れを言おう」

セツの唯一にして一番の人___ボンゴレ十代目・沢田綱吉は残酷な宣言をした。
その言葉にセツは凍り付く。
心の機微に聡い綱吉はセツの心情を敢えて無視したまま言葉を重ねる。

「俺はもうすぐ死ぬだろうね」
「ならッ!」
「でも、不老不死にはなりたくないんだ」

ごめんね、とその唇からぽつりと零れた。
何処までも平凡を平穏を愛したその人が望まないことをセツは知っていた。
それでも考えを変えてくれないかと願った。
昔よりも骨張った手のひらは病と加齢で皺を刻んでいる。
その手のひらでそっとセツの手を取る。
低めの体温が消えゆく炎のようで泣きたくなる。

「だからさ、約束をしよう」
「やくそく……」
「まず、俺が死んでも死んじゃだめだよ」
「……」
「生きて。それから沢山の人と出逢って、関わって。独りじゃ淋しいだろう?」

時々でいいから俺達の血縁者に会って気に入ったなら手助けをしてあげてよ、と綱吉は未来への約束を紡いでゆく。
琥珀色の瞳は変わらぬ春の木漏れ日のような光を讃えている。
砂時計の音がする。
さらさらと流れて、落ちきる音。
この手を離してしまえば別離はすぐそこまで迫っているのを意識せざる得ない。
迷子の子供のようにその手に縋る。

「色んな所を見て来てよ」

仕事が忙しくて旅行とかできなかったし、と笑う。
明日も明後日もそのずっとずっと先もなぜこの人は隣にいないのだろう。

「それから___色んな人を好きになって、愛して。そして生きて、幸せになって」
「……ひどい」

潤んだ瞳で綱吉を見遣る。
感情が制御不能を示し雫が頬を伝う。

「貴方を喪ってまで、生きていたくないのに、生きろと言うのですか!!」
「うん」
「貴方達がいないのに、喪うしかないのに、関われっていうのですか……?」
「うん」
「貴方達がいないのに、幸せになれるわけ、ないじゃないですか!!!」
「うん、ごめんね。でも、撤回はしないよ」

俺はセツの幸せを願っているから。
その言葉を紡いだ声はとても優しかった。
伝い落ちた雫はシーツに消える。

「ひどい……君主は本当にひどい人だ…………」
「うん」

夕食を持って来た綱吉の左腕が訪れるまで、沈黙が落ちる。
無言の別離をセツはその後何十年何百年何千年と仔細に渡って欠片たりとも忘れることはなかった。





そしてそれから三月も過ぎた頃。
ボンゴレ十代目の死去がマフィア界に流れ、大々的な葬式が行われる事となった。
沢田綱吉の墓は海に面した高台の墓地に埋葬され、命日の日には大量の花束が彼の墓所に献花される。
彼がどれほど好かれていたか伺い知れよう。
それは彼の死後百年を過ぎ去ろうとも、変わる事はなかった。


おわり
130419

あとがき
実を言いますと、この展開は随分前から決まっていました。
葬神鬼のシリーズは人外主です。
葬神主達は人よりも永く生きるのです。
いえ、人であってもいずれ、誰かに置いて逝かれて、そして誰かを置いて逝くものです。
死を避ける事は叶いません。
葬神主達もまた唯一に出会い、喜び時に怒り、共に時間を過ごして来ました。
そして最後に彼らに注がれるのが、深い深い悲しみです。
楽しいだけの物語にしたくなかったんですよね。
生きているって、幸と不幸・喜劇と悲劇を繰り返すものです。
彼らもまた生きていて欲しいから。
ではではまた


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